HOME > 研究プロジェクト
研究プロジェクト
-
iGonad法を用いたレット症候群モデルマウスの樹立
レット症候群の原因遺伝子であるMeCP2(Methyl-CpG-binding protein 2)遺伝子には,核局在化シグナル(NLS: Nuclear Localization Signal)が存在し,タンパク質が細胞質から核内へ移行する役割を果たしている。MeCP2のNLSドメインは,アミノ酸残基255-271 (KSKRK...KKR)の塩基性に富んだアミノ酸配列でクラシカルなMonopartite NLSの特徴を持ち,主に輸送因子インポーチン(Importin-α/β)系によって核内移行が行われるとされてきた。このことから,NLSが正しく働かないとMeCP2の核移行が障害され,転写抑制因子として主に核内で機能するMeCP2は機能不全に陥る可能性がある。実際,NLSドメインに変異があるレット症候群患者(R255X,R270X)は,重度の神経発達障害を示し,特に,てんかん・小頭症・運動能力の喪失が顕著である。これまでの研究で,NLSを欠いたヒトMeCP2タンパク質の核内局在の解析やPACやBACといったトランスジーン(Tgマウス)の解析からMeCP2のNLSにインポーチンαのサブタイプであるKPNA3やKPNA4が結合しMeCP2の核内移行を制御されているとされてきた。一方で,別のグループの研究ではNLSとは独立にMeCP2の核内移行が制御されていると報告され,MeCP2のNLSドメインの機能については未だ意見が分かれている。そこで,我々はMeCP2のNLSドメインであるアミノ酸残基248-271のみを欠失させたMecp2ΔNLSマウスを樹立し,MeCP2のNLSドメインの機能に迫ろうと考えた。
-
ヒト染色体工学技術を用いた核内ダイナミクスの解析
我々は鳥取大学の押村光雄教授の指導の下,ヒト染色体移入技術を学び様々な細胞株に自由にヒト染色体を移入する技術を持っている。本研究では,親由来特異的に発現するゲノムインプリンティングの遺伝子発現制御メカニズムを明らかにするため,ヒト染色体を一本保持するマウス雑種細胞を用いて研究を行っています。一般に,インプリント遺伝子はそのプロモーター領域のメチル化やヒストン修飾といったエピゲノム修飾により制御をうける遺伝子群でありますが,遠位にあるエンハンサーやノンコーディングRNAにより染色体ドメインレベルで制御を受けています。そこで,私達は細胞核内におけるゲノム配置に着目し,DNA-RNA-FISH法を駆使することで,核内クロマチンダイナミクスを介したゲノムインプリンティングの分子基盤の解明に取り組んでいます。これらの研究は,カリフォルニア大学デービス校のLaSalle教授との長年の共同研究であります。
-
ZFP57欠損マウスの解析
配偶子形成過程におけるゲノムインプリントの確立・維持に必要なZFP57のコンディショナルノックアウトマウスを作製し,神経細胞分化におけるその遺伝子機能の解明に取り組んでいます。
-
ゲノム刷り込みの脳における進化的意義の解明
ゲノム刷り込みとは,子の遺伝子に父親と母親のどちらの由来の遺伝子であるかが記憶される現象であり,哺乳類における胎盤の形成や被子植物の種子形成に重要な役割を果たすことが知られている。その進化的意義については,しばしば胎児・胎盤の成長の促進を正に制御する父親ゲノムと負に制御する母親ゲノムのコンフリクト(対立関係)で説明されてきたが,脳での刷り込みの進化的意義について説明できるものではない。我々は,脳での刷り込みの進化的意義として,哺乳類が出生後に必要とする養育における母親と子の関係に着目して研究を行っている。実際,生後3ヶ月間ヒトの手による人工哺育を受けたマーモセットと親哺育を受けたマーモセットの脳における遺伝子発現解析を行ったところ,いくつかの刷り込み遺伝子の発現異常を見出している。現在,養育における母親と子の関係の中で,如何にゲノム刷り込みがその関係席に関わっているか明らかにしようと取り組んでいる。