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研究概要

一昔前まで,遺伝子(SNPs)やタンパク質(アミノ酸)の違いこそが個体差を示すものと考えられてきました。しかしながら近年の大規模なゲノム解析により,タンパク質をコードしている領域以外の「ノンコーディングな領域」が生物の複雑さに沿って増大し,ヒトで最大(98%)になる事が明らかとなっています。そして,この「ノンコーディングな領域」が遺伝子の発現時期や発現場所を調節する上で極めて重要な役割を果たしている事が明らかになるにつれ,「ノンコーディングな領域」こそが,進化の上でヒトが人らしさを獲得した重要な鍵になっていることが示唆されています。

近年,自閉症をはじめとした神経発達障害の患者数の増加が懸念され,その治療法の開発や原因究明が重要な研究課題となっていますが,ヒトの複雑な脳における遺伝子発現制御には「ノンコーディングな領域」を介したメカニズムが介在すると考えられます。

最近のヒトゲノムコピー数多型の解析から自閉症患者でノンコーディングな領域に特定のゲノムコピー数多型(CNV)が頻回に認められると報告されました。また,ダウン症や母方15番染色体の重複,18番染色体トリソミー症候群,クラインフェルター症候群などのトリソミー症候群では,その過剰染色体が異なるにもかかわらず,自閉症や精神発達遅滞などの脳機能障害が共通して認められる例が極めて高いことが知られています。このように,自閉症などの神経発達障害の発症には単に「遺伝子量の変化」では説明の出来ない複雑な分子機序が推定され,何らかの形で「ノンコーディングな領域」がその発症に大きく寄与していることは間違いないと思われています。

私たちは「ノンコーディングな領域」がどのように周囲の遺伝子発現を時期特異的・組織特異的に制御しているのか,その分子基盤の解明を目指して研究を進めています。特に私たちは,染色体の数的異常やゲノムコピー数多型が細胞核内における正常な「ゲノムの核内配置」に重大な影響を及ぼし,脳機能に重要な遺伝子発現に染色体ドメインレベルで異常をきたしている可能性を考えています。このような研究を通じて,ヒトが進化の上で獲得した「ノンコーディングな領域」を介した複雑な遺伝子発現制御機構を明らかにしていきたいと思います。